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対比は上下でなく左右に配置する方がよい理由|スライドデザイン研究所

スライドにおいて、対比する項目を左右に並べるのはよくあることだ。スライドは横長で使うことが多いので、スペースをうまく使おうとすると左右に並べるのが自然である。

では対比する項目を上下ではなくて左右に配置するのがなぜよいのか、今回は生物学的視点から3つの理由を紹介する。


理由①人間の視線パターン

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前回の記事に書いたように、通常、人間の視線はまずは左から右、そして上から下へと流れる

例えば、対比する構図が上下に並んでいる場合、まずは上にある項目の内容を左から右に読む。そして経験則から、上下2つは上下関係のあるもの、あるいは上から下へかけて時間経過したものと勘違いしてしてしまいがちである。

一方、対比する構図が横に並んでいる場合、左から右へと視線が移り、最初から並んでいる2つが対比するものと認識しやすい

読者を位置関係によって混乱させないように、対比は横に並べるのが理にかなっている。


理由②人間の視界


人間の目は前向きに横に並んでおり、その視界は上下より左右に広い

人の視野は両目では水平方向に広く、水平方向に約200度、垂直方向には上に50度、下に75度である(下図の水色部分)。


そのうち情報受容能力に優れる有効視野は、水平方向に30度、垂直方向に20度である(下図のピンク部分)。


さらに細かいものを見られる中心視(中心窩)は1-2度である(下図の黄緑色部分)。

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図はJones et al (2013)より
Jones, J.A., Swan, J.E. and Bolas, M. (2013) Peripheral Stimulation and its Effect on Perceived Spatial Scale in Virtual Environments, IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics: Proceedings, IEEE Virtual Reality 2013, 19(4), 701–710


1997年に東京工業大学の小林洋美博士がNatureに発表した論文によると、人間の目の外部形態は、ほかの霊長類のそれと比べて、特に水平方向の視野を拡大するよう適応している。

ヒトの祖先が森を出て完全な地上性生活者となり、体が大型化するにつれて、特に水平方向の視野拡大が必要だったためである。

またコミュニケーションにおいて相手の視線方向を検出しやすくするためでもある。

つまり人間は進化の過程において、走る獲物を瞬時に捉えて適切に射止めたり、かつ周りの人間と協調して生きていく必要があったので、水平方向の変化には強い。

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一方で上下の動きに関して、例えば木の実が落ちてきたとしても、どうせ下で止まっているので上下の動きに強くなるメリットは左右に比べると無かったため、縦の変化には弱い。

そして現代の私たちの普段の生活においても、水平方向の情報に対してより敏感であり、上下方向はあまり注意していないことが多い。


理由③眼球運動と記憶力


また目の動かし方という点でも、左右に配置する方が合理的な理由がある。

目を左右に30秒ほど動かすことで、記憶力を高められるという研究結果がいくつかある。

例えば、イギリス・マンチェスターメトロポリタン大学の認知神経学を専門とする心理学者、アンドリュー・パーカー博士が2007年に発表した論文によると、被験者に単語の記憶テストを行った結果、左右の眼球運動をした人は、垂直の眼球運動をした人に比べて、10%以上多くの単語を正しく覚えていたという。

Parker, A., Relph, S., and Dagnall, N. (2008) Effects of bilateral eye movements on the retrieval of item, associative, and contextual information. Neuropsychology, 22(1), 136–145

記憶力が高まる理由の一つとして、目を左右に動かすことで右脳、左脳ともに活発になり、両脳間の相互作用も大きくなるためと考えられている。

よって左右に配置された対比を交互に読ませることで、スライドを読む人の記憶力をより高める効果があるかもしれない。


まとめ

対比を上下でなく左右に配置する生物学的理由3点をあげたが、実用的な理由もある。

昨今、パソコンの画面のサイズが4:3から16:9が主流になり、プロジェクターが16:9にも対応したりと、プレゼンテーションのサイズに変化が起こっている。

それに伴いグローバルスタンダードなスライドの縦横比も、4:3から16:9と横長に変化している。

これはスライドを横に長く書くことが、世界的に良しとされた結果だからと言える。

実際、横幅が相対的に広い分、今回の話のような対比の項目を横に並べやすくなっており、スライドに入れる情報を増やすことができるという利点をぜひ活用していきたい。


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