
パワポ作業前に手書きでストーリーラインを書いた方がいい理由|スライドデザイン研究所
ビジネスにおけるスライド資料作成といえば、PowerPoint(以下パワポ)が広く活用されている。Wordの文章中心の資料に比べて、図解やグラフの入ったパワポ資料はパッと見でわかりやすく、人に何かを伝えるのに便利である。
ところで、スライド資料を作成する際、とりあえずパワポを開いてしまっていないだろうか。内容が決まってなくても、パワポをいじっているとなんだか仕事が進んでいる気になりがちである。
しかし内容が固まっていないうちからパワポで作業するのは、危険である。パワポでスライドを一通り作った後に上司に確認してもらったら、内容の構成からやり直しになった、なんてことになりかねない。
パワポを開いてから何を書こうかと考えるのではなく、先に何を書くか手順に沿って概ね準備してから、パワポで作業開始するのがよい。

どういう手順で準備したらよいのか?
BCGやマッキンゼーといった外資系コンサルティングファームでは効率的な資料作成フローが確立されており、Timewitchの社員はそれらのフローに則ってスライドを作成している。
そこで今回は、まずスライド作成フローについて紹介する。
スライド作成の流れ
①スライドdeck全体 (一つの冊子となっているスライドの集合体のこと)
の目的を設定
:誰に何を伝えるのかを明確にする
②スライドdeck全体のストーリーを作成
③各スライドのタイトルのみを作成
④各スライドの要素に必要な情報を収集
:やみくもに調べるのではなく、情報の仮説をたててから情報収集。目的に合ったビジネスフレームワークを使うのもよし
⑤各スライドのデザインの大まかな方向性を作成
:紙に全体像を絵で描く
ーーーーーーーここでパワポを開くーーーーーーー
⑥各スライドのデザインのフレームを作成
⑦各スライドのデザインのフレームワークに、②に沿って④を挿入
:この時④で調べた情報を全部入れるのでは無く、デザインを優先する方が”伝える”という目的からすると良い
⑧スライドdeck全体を通して第一最終確認
⑨一晩おいて、スライドdeck全体を通して第二最終確認

まとめると
①~③では箇条書きなどテキストとして書き出してみる。ここではWordやExcelに入力してもいいが、紙とペンを使った手書きをおすすめしたい。
④で情報収集
⑤で全体像の絵を紙に描き
⑥~⑨でパワポにまとめる
といった手順である。
手書きの理由
なぜ最初の段階で手書きでの作業をおすすめしたか。
手書きはタイピングに比べて、手を動かすといった触覚や不規則な視覚イメージによる刺激が多く、脳の複数の部位、特に記憶や学習に重要な部位を活性化させることが知られている。
例えば、東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授らの研究によると、物理的な紙に手で書くことによって得られる複雑な空間的・触覚的情報が、記憶力の向上につながる可能性があるという。
Umejima K, Ibaraki T, Yamazaki T, Sakai KL. (2021) Paper Notebooks vs. Mobile Devices: Brain Activation Differences During Memory Retrieval. Front Behav Neurosci.
また手書きはタイピング入力よりも時間がかかる分、脳で情報をより選別して処理することになり、さらに徹底して考える時間が増えるため、概念的な理解が深まる。
Mueller PA, Oppenheimer DM. (2014) The pen is mightier than the keyboard: advantages of longhand over laptop note taking. Psychol Sci. 25(6):1159-68. Erratum in: Psychol Sci. 2018 Sep;29(9):1565-1568.
ということで、考えるときはペンと紙を使ってじっくり考える事をおすすめしたい。

スライドを一晩おく理由
⑨の工程では、スライドdeckを一晩おいてから最終確認と書いた。一晩寝たら頭がすっきりしたという経験は誰もが持っていると思う。すっきりした頭でもう一度確認すれば、誤字脱字などのケアレスミスに気づきやすいのはもちろんである。
また⑨の工程に限らず、思考が煮詰まったときにも一晩おくことをおすすめしたい。その理由は、寝ることで思考の整理をするためである。
UCSCの精神病理学者Sarnoff A. Mednick博士らの研究によると、睡眠中の特にレム睡眠の間に、脳の中に散らばっている情報が統合・整理され、それによって創造的な問題解決の助けとなる新しい洞察を得ることができるという。
また英国ランカスター大学心理学部のPadraic Monaghan教授らの研究によると、行き詰っているときに一晩眠ることは、特に難しい問題への対処に効果的という事である。
徹夜して頑張って資料を完成させるより、ある程度のところまで資料を作成したら一晩寝かせて、翌日調整する方が効率的というわけである。

最後に
最後にもう一度。
資料作成時にパワポを開くのは、伝える内容が固まってから、が鉄則である。
