読みやすさのカギを握る「空間」の話|スライドデザイン研究所
メッセージをより効果的に伝えるために、テキストの字体・カラー・大きさを自由に設定できるパワーポイント。しかし案外見落とされがちなのが、文字と文字の間の「空間」である。
行間と字間の設定は、ビジュアルと読みやすさに大きな影響を与える。本記事では、スライドにテキストを追加する際の、効果的な「間」の使い方にフォーカスしたい。
広すぎず、狭すぎず
現在のTimewitch標準フォーマットのルールには、行間・字間設定に関する具体的な規定はない。案件によってレイアウトやスライド一枚あたりの情報量は大きく異なり、行間・字間の数値はその都度バランスを鑑みて設定している。
しかし、どのようなスライドでも念頭に置いておきたいのは、文字の間に適度な空間を入れることで、読みやすさが向上するという点だ。
文字同士の間隔が狭すぎると、圧迫感があり素早く正確に読み取るのが困難になりうるし、逆に離れすぎていても、視線の移動が増えるなどして読みやすさを損ねてしまう。
スペースに余裕があるならば、行間は1.1~1.5程度、字間は「標準」よりやや広い設定(+1.0pt前後)が理想と言える。この点を裏付ける4件の研究をご紹介したい。
理想的な行間
Rello, Pielot & Marcos (2016) は、行間が異なる複数のウィキペディアページの読みやすさと理解しやすさを測る実験を行った。
用いられた行間設定は0.8、1.0、1.4、1.8で、ウェブブラウザのFirefoxでは、それぞれフォントサイズの96%、120%、168%、216%に該当する。
測定基準は、①アイトラッキングと ②理解度テストによる客観的評価、および ③読みやすさ・分かりやすさについての被験者の主観的評価だった。
結果、行間が狭すぎると理解度テストの正答率が落ちた。一方で、広すぎると主観的評価が低下し、読み手が分かりづらさを感じていたことが判明した。
Chan, Tsang & Ng (2014) は、ウェブ画面で中国語の文章の校正が素早く正確に行える書式設定を調査した。
行間設定(1倍、1.5倍、2倍)のほか、各行の長さ(1行に26文字、 36文字、46文字)と一度に表示される行数(2行、4行、8行)を変えて測定が行われた。
その結果、校正のパフォーマンスが最も高まるのは行間1.5倍、各行に36文字で一度に4行が表示された場合だった。
これは、内容によっては漢字を多用する日本語のスライド作成時に、念頭に置いておきたいデータである。
なお本記事のトピックからは逸れるが、スライド内でテキストボックス一つに収める文字量を多くしすぎないことの大切さも示唆している。
理想的な字間
字間に関する研究は行間に関するものよりも少ない。しかし、複数の論文を読み比べると、行間と同様、字間も狭すぎず広すぎない、適度なスペースが理想とされている。
例えば、Perea et al. (2012) は、平均23歳の若者および7歳から13歳の子どもを対象に、語彙判断課題(スクリーンに文字列を表示し、それが実在する単語の綴りかそうでないかを瞬時に判断するというタスク)を用いて実験を行った。
すると、字間がデフォルトよりやや広い場合の方が、両グループにおいてパフォーマンスが向上した。子どもたちの中では、特に読字障害を持つ被験者の間でこの傾向が顕著だった。
このブログでは過去2回に渡り、障がいの有無を問わず誰にでも読みやすいと感じてもらえるデザインについて言及してきた:
字間を狭くしすぎないこともまた、万人にとって読みやすいスライド作成に一役買うのだ。
では、字間を広げすぎるとどのような影響がでるのだろうか。それを調査した実験結果がPaterson & Jordan (2010) によって報告されている。
英語の短文を用いた彼らの研究によると、各単語内の文字同士の間隔が広すぎて、単語間の境界が分からない状態では、素早く単語を認識するのが困難になる。
これは、字間を広く取ったまま、単語同士の間隔を空けることでやや改善されるそうだ。裏を返すと、単語同士の間に元々スペースのない日本語の場合、広すぎる字間には特に注意が必要だと言える。
まとめ
パワポスライド上での行間と字間の調整は、単なるビジュアルの問題ではなく、内容を効果的に伝えるために欠かせない要素だ。
狭すぎても広すぎてもデメリットが生じ、いずれもデフォルトよりやや広い程度の「ちょうど良い」設定が望ましい。
情報量の多いスライドの場合は、メッセージを凝縮する必要性が出てくることもあるが、臨機応変に適度な空間を確保できるよう心掛けたい。