スライド生成AIが生まれた世界における、人間によるスライド作成の意義|スライドデザイン研究所
昨今、AI(人工知能)の進歩が目覚ましく、スライド生成AIなるものが次々に登場している。
2023年3月16日に公開されたMicrosoft Copilotでは、代表的な大規模言語モデルであるChat GPT (OpenAIが開発した自然言語処理技術をベースとした対話型のコンピューターシステム) をベースとして、Microsoft365のアプリデータを組み合わせることで、PowerPoint上でスライド作成が可能である。
これらスライド生成AIツールによって、世のビジネスパーソンはスライド作成業務から解放されるのか?
結論としては、部分的に解放されていく。
歓送迎会の投影資料、表紙などのデザイン重視の資料は徐々にAIに代替できる。一方で、論理構成を分かりやすいデザインに落とし込む必要のあるビジネススライドでは、AIによる代替はまだ無理である。
Microsoft vs. Timewitch
昨今のAIの急速な進歩によって、これまで人間がやってきた仕事をAIに任せられる場面が増えてきた。
それによって人件費の削減、労働生産性の向上、仕事のスピードアップなどが期待される一方、「AIに仕事を奪われるのか」という点も話題になっている※1,2。
スライド生成AIが出てきた今、人力でスライドを作成しているTimewitch※3はこれからやばいんじゃないの?という声も聞こえてくる。
https://twitter.com/CEOfromBCG/status/1636549124295376896?s=20
ではMicrosoft Copilotなどのスライド生成AIの登場で、この先Timewitchは生き残れるのだろうか…?
AIによるスライド作成
Copilotをはじめとするスライド生成AIツールでは、人間が自然言語で指示したことを、高度で複雑な処理によって短時間でスライドを作成できる。
簡単に説明すると、AIがテキスト情報からキーワードを抽出してリサーチを行い整理、それを元に画像検索エンジンや画像データベースを使用して関連する画像を探してスライドを作成している。
このあたりの作成方法は、スライド生成AIツールによって多少異なる。
デザイン系スライド
これらスライド生成AIツールによるスライド作成のデモを見ると、従来はデザイナーに任せていたような見栄えのよい画像を多用した、印象重視のデザイン系スライドである。
Copilotでスライドを作成する場合、人間が最初の指示を出し(目的設定)、AIがテキストからキーワードの抽出、リサーチ、文章の整理、またその文章に関連した画像やアイコンを探す。
途中、内容の変更を加えたい部分や詳しく述べたい部分があれば、その都度人間が指示を与えて修正していく。
そして出来上がったスライドを人間が最終チェックする。
最初の目的設定と最後の最終チェックは、人間が行う必要がある(後述)。
構造重視のビジネススライド
一方、Timewitchに依頼されるビジネススライドのほとんどは、デザイン系スライドとは異なり情報量が多い構造重視のスライドである。その内容は様々な要素が複雑に絡み合っており、内容の構造化作業がとても重要である。
例えばTimewitchにテキストデータで入稿依頼があった場合、先ほどのデザイン系スライドの作成過程にはないテキスト内容の構造化、ラフ画により構造の視覚化の方向性を決定するという手順を加えてスライドを作成している。
AIには難しいこと
ChatGPTなどのAIでは、タイトルや要約の生成など、文章の構造化はある程度まで可能である。また文章の論理的な構造や論理的な繋がりを理解はできる。
しかしAIツールが状況を読みとり文脈を理解するところまでは難しい。よって生成したスライドでは一般的なことは示せるが、指示した人間の意図することを完全に理解して反映させることは不可能である。
また現段階では、AIから期待する回答を得るには、人間側がテクニックを使って質問を繰り返していく必要がある。そしてその内容は、過去のある時点までのデータに基づいて大規模言語モデルが導き出した一般論であるため、自社のオリジナリティや最新の市場の状況など含める必要のある実際のビジネスシーンでは使いづらい。
という事でTimewitchは生き残れるのか?という問いに対する答えは…
当面は、印象重視のデザイン系スライドはAIに徐々に代替され、構造重視のビジネススライドはTimewitchが請け負うという棲み分けができると考えている。
ビジネススライド作成においてAIができること
とはいえ、将来いつの日か、スライド作成がAIに''完全に''取って代わられる日がくるのではないか?
答えはNo。
スライドの作成ではAIが作業できる部分と、人間が作業するべき部分がある。
以前の記事(パワポ作業前にストーリーラインを書いた方がいい理由)で、スライド作成の流れを書いたが、今回は少し改訂したバージョンの流れで話を進める(下図STEP1-7)。各段階の作業が、今後AIに取って代わられるのか予想してみた(右端の主な作成者)。
各段階を詳しくみていく。
Step1
スライドやスライドdeck全体の目的設定は、AIには不可能である。AIは蓄積された膨大なデータから最適解を導くツールなので、最適解の判断軸となる目的自体は、引き続き人間が設定する。
Step2
特定のテーマに対して、インターネット上に転がっている情報から一般的なレポートをAIが作ることは可能である。 一方で特定の目的に対して、自分たちしか知らないファクトや解釈を用いたストーリーを作ることは不可能である。よって、それらのファクトやストーリーを作ることは、引き続き人間が実行する必要がある。
Step3
用いたいファクト、解釈、ストーリーがある程度明文化されている状態ならば、それをAIに最適な形の文章に落とし込んでもらうことは可能である。よって、2まで文章ベースで最低限整理出来ているのだとしたら、3はAIに任せられる未来が近い。
Step4
3で文章化されたスライドdeckのストーリーを用いて、スライドに載せた上で文字数調整などを行うこともAIには可能である。
Step5
テキスト情報から関連する写真などを用意/生成することはAIにも可能である。一方で、テキスト情報を読み解き、適切な構造に落とし込んだデザインの方向性を決めることは、Microsoft Copilotをはじめとするスライド作成AIのデモを見る限り、直近では難しそうである。ただし、AIの進歩により、いつの日か代替される可能性も0では無い。
Step6
デザインの方向性が定まった上で、その方向性に沿ったスライドを作成することは、現在の画像認識技術では実現可能である。ただしスライドの膨大なデータベースを構築する必要があるため、実現まではもう少し時間がかかる。
Step7
AIが個別の状況を読み取って100%自分の意図したスライドが完成することは不可能なので、最後まで人に依存する。
AIをうまく使う
AIが進歩しても、なぜ全ての作業をAIに丸投げできないのか。
一般に、仕事は主に2段階に分けられる(代表のnote記事「論点思考とは?」参照)
1. やる仕事を決める
2. 決められた仕事をやる
Step1,2,5,7といった、AIが進歩しても人間がやる必要がある作業は、1にあたる。特にStep1の目的の明確化とStep2の構造化 は、スライドの根幹に当たる最重要箇所である。
Step2の構造化については、先に述べたとおり、AIに全て任せるとそれらしい一般論の羅列になってしまう可能性が高い。よって部分的にAIの力を借りるとしても、人間が頭を使って頑張る必要がある。
Step3,4,6のようにAIに任せられるところは、AIを利用してどんどん作業を効率化していくことで、スライド作成業務からある程度解放される。
将来的にはスライド生成AIツールに、もっと多くの部分を任せられるようになると考えられる。(ただしこれらAIツールを使用する際に、入力した内容はシステムに蓄積されて学習される可能性があるため、機密情報などは含めないよう注意が必要である)
しかし先ほどのStep2をAIに任せるようなビジネスパーソンは、もはやAIを使っているのでは無くAIに使われている状態に陥っているといえる。仮にあなたがいつの日かStep2をAIに任せていたとしたら、自分の生み出している付加価値はなんなのか?を自問自答してほしい。
自分の頭を使って構造化した内容で自信を持ってプレゼンするためにも、スライド作成の舵取りは人間でありたい。
Timewitchをうまく使う
前述Step5 である、テキスト情報から適切な構造に落とし込んだデザインの方向性を決めるディレクション作業は、Copilotではまだできないことであり、Timewitchが得意とするところである。
Step4までを準備できたら、その後のパワポのデザイン部分はTimewitchに任せてゆっくり寝る、そして翌朝冴えた頭でTimewitchから届いたスライドの最終チェックをするという使い方をおすすめしたい。