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スライドの文字数は何文字が適切か?|スライドデザイン研究所

パワーポイントのスライドデザインで大切なのは、読み手に理解・納得してもらうことである。そのためには読み手に負担をかけない(脳を疲れさせない)ように、情報を整理して「ビジュアル化」する必要がある。


まず人間の脳が一度に処理できる情報量は限られている。
処理できる情報量の限界を超えると、認知機能の効率と質が低下する。つまりは、与えられた全情報が理解出来ず混乱したり、意思決定のプロセスが困難になる。

アートボード 1

図の引用 : Roetzel (2019)より

このような症状は、今から50年以上も前にアメリカ・ハンター大学の政治学教授であったBertram Gross博士によって情報オーバーロード(情報過多)と名付けられた。現代の情報化社会に生きる人に、しばしば起こる症状でもある。

Gross, Bertram M. (1964). The Managing of Organizations: The Administrative Struggle. p. 856


1枚のパワーポイントのスライドでも同じである。文字だらけの情報過多スライドを前にして、脳がフリーズした経験をもつ人も多いのではないだろうか。

読む人の脳に負担をかけないためにも、「スライドにたくさん文字を書かないと仕事をした気にならない」「手抜きだと思われたくない」なんて考えは今すぐ捨てなくてはいけない。



人間のメモリ容量

人間の短期記憶容量に関して60年以上前に発表され、かつ心理学分野で最も引用された論文の一つに、ミラーの法則(別名:マジカルナンバー7±2)というものがある。


1956年にアメリカ・ハーバード大学の認知心理学者George A. Miller教授が発表した、この心理学的法則では

人間が短期記憶に保持できる情報は7個(±2)

といわれていた。ここでいう情報の~個とは、チャンク(かたまり)のことである。

短期記憶:人間が数十秒間に保持できる記憶。ただし情報の容量の大きさには限界がある。


その後、2001年にアメリカ・ミズーリ大学の心理学教授Nelson Cowan教授が発表した論文によると、

人間が短期記憶に保持できる情報は4個(±1)

とのことである(マジカルナンバー4とも呼ばれる)。


つまり短期的に片手で数えられる程度の情報しか、頭に残らないということである。


例えば、大量の文字を並べたスライドはどう改善したらいいのか。文章を4個の要素に分けて見出しをつけるなど整理することで4個の情報となり、短期記憶に残りやすい。

005_図1


1スライドの文字数


では実際に、パワーポイントのスライド文字数はどうしたらいいか?

前回の記事(スライドにおける最適な文字サイズには訳がある)に書いたように、パワーポイントのスライドは講演などのプレゼンテーション(キースライド)だけでなく、会社で企画書、報告書など説明資料(ディテールスライド)としても使われることが多い。そして、それぞれ役割が異なる。

キースライドの場合、主役はプレゼンターでありスライドはそれを補足するものである。

一方、ディテールスライドでは主役は資料である。口頭の説明なしでも、相手が読むだけで内容を理解できることが求められるため、文字数が多くならざるをえないこともよくある。

それぞれを分けて最適文字数について考えていこう。


キースライド


よく巷で言われる、「スライド1枚につき説明1分の情報量」というのは、キースライドに当てはまる。そしてキースライドでは文字や画像は最低限に、シンプルにすべきである。

かつてマイクロソフトでパワーポイントの事業責任者を務め、現在は株式会社クロスリバーの代表取締役・越川慎司氏による、5万枚以上のパワーポイント資料のAI分析と826人の意思決定者へのヒアリングから導き出した「人を動かす資料」の法則のひとつによると、1スライドにつき105文字以内が最適な文字量ということである。

越川慎司(2020) 科学的に正しいずるい資料作成術. かんき出版

英語のスライドの場合、昔のツイッターの文字量である140文字以内がよいとされる。

1スライドに105文字



ディテールスライド


ではディテールスライドの最適な文字量はどうだろうか?

Timewitchがおすすめするディテールスライドの文字数は、
上限が750文字、ベターなのは500文字以内である。
その理由について説明しよう。

まずスライドに入れられる文字数は文字サイズによって変わってくる。
ディテールスライドの本文の文字サイズは最低14pt(過去記事参考)としたいが、実際のビジネスシーンでは14pt未満の文字サイズで挿入しなければ情報が収まらないことも多くある。では何ptなら許容範囲なのか?


文字サイズについては、プレゼンテーション用のスライドでは14pt以上としたいが、パソコンモニターで見る場合やA4の紙資料では12pt以上が許容範囲である(※1,2)。11pt以下の文字は、老眼や弱視の方にとって読みづらいため使わない方がよい。

※1
IBMのコンピュータサイエンス研究者David Beymer博士の研究によると、読み取り速度や理解度を考慮するとオンライン上の文字サイズは12ptが適当であるという。
Beymer, D., Russell, D., and Orton, P. (2008). An eye tracking study of how font size and type influence online reading. 15-18. Proceedings of the 22nd British HCI Group Annual Conference on HCI 2008: People and Computers XXII: Culture, Creativity, Interaction - Volume 2, BCS HCI 2008, Liverpool, United Kingdom, 1-5 September 2008

※2
ウラル連邦大学の印刷・ウェブデザイン研究者Dmitry Tarasov博士によると、印刷物におけるもっとも読みやすい文字サイズの平均値は12pt近くである。
Tarasov, D. (2015). Legibility of Textbooks: A Literature Review. Procedia - Social and Behavioral Sciences. 174. 1300–1308.


文字数については、読み手がスライドをパッと見て拒否感を持つ(=読んでもらえない)文字量は避けたい。では拒否感を持つ文字量とはどのくらいか?


そこで日々Timewitchへの入稿データからスライドのディレクションメモを作っているマネージャーたちに、様々な文字サイズと文字数のスライドを見てもらい、第一印象で「うわっ、情報量多すぎ!」となるスライドを選んでもらった。

その結果、「うわっ」とならなかった最大文字数のスライドはこちら。

750文字


見出しや適度なスペース、アイコンなどをいれたディテールスライドでは、文字サイズ12ptの場合は750文字くらいであれば、読み手に読む拒否感を与えないといえる。

ただし、同じ文字数でも文字サイズ14ptのスライドは、文字による圧迫感が大きく、ディレクションマネージャーの反応はNGだった。


ちなみに文字サイズ14ptの場合で、「うわっ」とならなかった最大文字数のスライドはこちら。

500文字


14ptの場合は500文字くらいであれば、読み手に読む拒否感を与えないといえる。よってディテールスライドの文字数は、できれば500文字以内に収めたい。


文字数を減らす方法


ディテールスライドはそれなりの情報量が求められるとはいえ、「上司に『頑張っているじゃないか』と思われること」をスライド作成の目的にしてはいけない。上司だって文字だらけのスライドよりも、すっきり情報がまとめられたスライドを読みたいはずである。

では情報量をキープしつつ文字量を減らすにはどうしたらいいのか?

まずは全体的な調整として
 • 頭の中にある情報をすべてスライドに落とさない
 • 文章をパラグラフに区切り、内容を整理する
 • 情報を要素に分解し、要素間の関係性を図解の型に当てはめる
 • 不要な部分は削除、必要な部分は箇条書きや体言止めにする

細かい調整として
 • 小見出しを入れる
 • 大事な部分は強調する
 • 不要な装飾は避ける
 • 行間をとる(行の高さに対して0.5~等倍で調整)
 • 余白をとる


最後に、キースライドもディテールスライドも、「1スライド1メッセージ」が基本であり、資料をみた瞬間にメッセージが伝わるのが理想である。


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