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プレゼンにスライドが必要な理由 |スライドデザイン研究所

~テキストコミュニケーションでOKか、スライドコミュニケーションであるべきか~
 
会議は議題に関する意見交換や意思決定、会社や部署の方向性を決定するために必要不可欠なものである。

一般的には、会議での発表者がプレゼン用にPowerPoint(パワポ)でスライド資料を準備することが多い。しかしスライド資料作成が苦手な人にとっては、パワポでの作業は大きな負担となりがちである。

資料はスライドでなくてテキストではだめなのか?
今回は、なぜスライド資料を作るのかを考えてみたい。

ここで最初に結論を書いておくと、
社内会議では、参加人数が少なく、議題に対する参加者の知識が深い場合はテキスト資料でOK、参加人数が多く、議題に対する参加者の知識が浅い場合はスライド資料をおすすめする。

また社外向けプレゼンは、聞き手の感情に訴えかける必要があるためスライド資料がおすすめである。


テキストコミュニケーション

テキストコミュニケーションとは、文書やチャットなど文字ベースのコミュニケーションである。

例えばテキスト資料では、スライドにおける箇条書きのように読み手が行間を推測して読む必要がないため、相手に正確に伝達できる。そのため細部まで詰められた精緻な報告には、テキストコミュニケーションが向いている。

Amazon流テキストコミュニケーション

会議をテキストコミュニケーションで行うことで有名なのは、世界的企業のAmazonである。Amazonの社内会議では、プレゼンでのパワポの使用が禁止されている。創業者かつ取締役会長のジェフ・ベゾスによると、パワポがNGな理由として、図や箇条書きでは人によって解釈が異なる可能性があるからという。

Amazon社内会議ではWordを使ったテキストのみによる資料(デイリーな会議用には1ページメモ、大きなプロジェクト用では6ぺージメモと呼ばれるナラティブ(叙述)なメモ)が準備される。図、グラフや箇条書きは一切入れない。

まず社内会議の冒頭に、会議の参加者全員がテキスト資料を黙読する時間を設けている。

前もって必要な情報を参加者全員が共有することで、その後すぐに議論に入ることができる。また各人が議題の重要な部分を把握し、頭の中を整理した状態で始めるため、質の高い質問や深い議論が可能となる。


 
ここまで読むと、「だったらプレゼンにスライドを準備しなくてもいいのでは?テキストだけでよくない?」と思われたかもしれない。ただしAmazon流のテキストコミュニケーションは、会議の参加者人数や内容によって、向き不向きがある。

前途のAmazonの社内会議には「Two Pizza Rule(ピザ2枚ルール)」というものがあり、議論に最適な人数はピザ2枚を食べられる人数(8人まで)という発想に基づく。

能力と決定権を持つ小規模なチームであれば、テキストのみでもコミュニケーションも迅速に行う事ができ、効率的な会議となる。

しかし大規模なチームでは、会議にも多くの人が関わるため、全体でコミュニケーションを図るのに時間がかかってしまいがちである。また内容に関して、様々な分野の人が関わる場合、テキスト資料だけで各人が複雑な内容を理解するのは難しい。

そもそも文章をちゃんと書いたり読んで理解できる人間が少ないというのもテキストコミュニケーションが難しい理由の一つかもしれない。

問題のひとつは読解力の低下

2018年の国際学習到達度調査(PISA)※1において、日本は読解力が前回(2015年調査)の8位から15位と大きく後退した。この結果について、文科省担当者は「自分の考えを他者に伝わるよう、根拠を示して説明することに課題がある」と分析している。

※1
経済協力開発機構(OECD)が実施している、日本を含む世界79カ国・地域(2018年版)の15歳を対象に、義務教育で学んだ知識や技能を実生活で活用する力を評価するテスト

読解力が低下しているのは子どもに限った話ではない。2013年に公表された国際成人力調査(PIAAC)※2によると、「150文字程度の本の概要を読み、質問に当てはまる本を選ぶ」という読解力を測る問題に対して、日本人の8割近くが不正解だった。

※2
経済協力開発機構(OECD)が実施している、日本を含む世界24カ国・地域(2013年版)の16~ 65歳を対象に、読解力や数的思考力、問題解決能力を測り、社会的・経済的成果との関係等を分析する調査。子供の学力を国際比較する学習到達度調査(PISA)の成人版。

情報化社会で子どもも大人も読書量が減っているといわれる。インターネットを駆使してたくさんの情報に触れているからといって、読解力が高くなるわけではない。

むしろ、インターネットの簡潔に書かれた文章を流し読みする習慣によって、注意深く文章を読み込むことが少なくなっており、読解力の低下に拍車がかかっている。

SNSなどの短文を「見る」ことに慣れてしまい、長文を「読んで思考する」まで至らないのである。

よって前途のAmazonの社内会議のように、テキスト資料を読み込んで深い議論をすることは理想ではあるが、実際は結構ハードルが高い。
 
そんな時はやはりスライド資料の出番である。
 

スライドコミュニケーション

パワポに代表されるスライド資料は、読むというより見る資料である。スライド上のテキストは主に要点をまとめたものであり、図解やグラフが中心である。内容の詳細は口頭で説明する。
 
ここで人と人とのコミュニケーションにおいて、言語・聴覚・視覚のイメージが矛盾した組合せの時に、どの情報が優先されるのか紹介したい。1971年に、米国の心理学者アルバート・メラビアンが提唱したメラビアンの法則によると、コミュニケーションにおいて言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%の割合で影響を与えるという。

すなわち話の内容はもちろん重要であるが、最も大きな影響を与えるのは視覚情報ということである。


スライド資料では図解やグラフといった視覚情報を使えることから、聞き手が直感的に理解しやすいというのが利点である。

一般的に、思考の整理を目的とした大まかな方向性の示唆にはスライドコミュニケーションが向いている。

そしてスライド資料には、主に2種類のパターンがある(共有型、提案型)。

共有型

情報共有プレゼンでは、内容を論理的に組み立てて簡潔に伝えることが重要である。よって自分と相手が共通認識を持った時点で目的は達成されるため、テキストコミュニケーションでもOKである。

ただし詳細を知らない上司や同僚に限られた時間でわかりやすく伝えるにはスライドコミュニケーションが適しており、情報伝達の速度と精度が高い図解やグラフなどの視覚情報をスライドごとに含めたい。

提案型

提案プレゼンでは、なぜその提案をするのか、その結果どうなるのか、ということを順序立てて説明することが重要である。そしてプレゼンによって聞き手の感情を刺激して、行動を起こしてもらう必要がある。

人は論理や合理性だけでは、行動を起こさない。人間は物事を判断する際、論理的な思考だけではなく、感情の働きにも左右される。
 
そこで論理的思考を得意とする左脳を刺激するのではなく、直感的に物事を把握することが得意な右脳を刺激するために、スライドの出番である。視覚情報によって右脳を刺激し聞き手の感情を動かすと同時に、口頭で説明することにより、効率的な提案プレゼンをすることができる。この時美しいスライドは武器となり、実力以上の成果をもたらしてくれるかもしれない。 

結局どんな資料を準備すればよいのか

テキストコミュニケーション、スライドコミュニケーションにはそれぞれ利点がある。下の表にあるように、テキストコミュニケーションでは資料の作成労力が少なくて済み、スライドコミュニケーションでは大勢の人に理解してもらいやすい

どちらの資料でコミュニケーションするべきか、会議人数や参加者の属性によって使い分けをしたい。

結論としては冒頭で述べたように、例えば社内会議では

  • 参加人数が多く、議題に対する参加者の知識が浅い、
    >限られた時間でわかりやすく伝えられるスライドがおすすめ

  • 参加人数が少なく、議題に対する参加者の知識が深い
    >テキストコミュニケーションでもOK

社外向けプレゼンは提案型であることが多いため、視覚情報で感情に訴えかけられるスライド資料がおすすめである。

どの資料にしろ、自分が頑張っているアピールをするのではなく、聞き手の立場に立った資料作成を心がけたい。
 

最後に

ジェフ・ベゾス曰く「優れたメモというのは、書いては書き直し、同僚と共有して改善を求め、数日置いてから、新鮮な気持ちでもう一度編集するものだ」。メモは数時間、数日で書き上げられるものではない。

これはスライド作成におけるストーリー構築にもあてはまる。

テキスト資料、スライド資料の両者ともに、明確でクリアな思考によって構築されたストーリーが基礎となる。ストーリーラインの書き方については過去記事を参考にしてほしい(パワポ作業前にストーリーラインを書いた方がいい理由)。

会議前日に徹夜でパワポ作業とならないように、日程に余裕をもって準備したい。ストーリーさえできていれば、パワポでの作業はデザインルールに沿って作成していくのみである。

とはいってもパワポのスライド作成が苦手、あるいはパワポの作業時間が一晩しかないという方は、Timewitchにおまかせするのも一つの手である。


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