左、右、中央? : ベストな文字配置はケースバイケース
スライド上の文字の配置は、見た目だけでなく、情報の伝わりやすさにも大きな影響を与える。PowerPointやWordでは、文字の配置について「左揃え」「中央揃え」「右揃え」「両端揃え」「均等割り付け」の5つの選択肢がある。それぞれの利点と欠点を把握して適切に使い分けることが重要だ。
Timewitch標準フォーマットでは、見出しなど短い文言には中央揃えを用いることが多い。一方で、3行以上の長めなテキストは左揃えが基本とされている。
それはなぜなのか?このルールの合理性を示す、専門家の見解やデータを紹介しよう。
長文テキストには左揃えか、両端揃えか?
ドイツの研究機関Fraunhofer MEVISのLars Ole Schwen博士は、以下の論文で、学術文書を魅力的に仕上げるための10のルールをまとめている:
左揃え、右揃え、中央揃えの欠点は以下のとおり。
・左揃え:比較的長くなった行の最後の語 (下図黄色部分) が不必要に目立ってしまう。
・右揃え:読み進める過程で次の行の開始位置 (下図青色部分) が分かりにくい。
・中央揃え:上記の2つのデメリットを併せ持っている。
両端揃えの場合、これらの問題は解消されると主張する。
これを踏まえ筆者は、ポスターやスライドに収まる程度の文字数であれば左揃えでも良いとしつつも、長文テキストには両端揃えを推奨している。
しかし、若干異なる見解を示す専門家もいる (Ling & van Schaik 2007) :
彼らは、左揃えと両端揃えの文章の読み取りやすさを比較する実験を行った。いずれかの設定で文章が表示されるWebページを被験者に提示し、その文中に特定の単語が含まれているか即座に判断させるというものだ。
結果、左揃えの方がパフォーマンスの正確性が高かった。一方、被験者の過半数が、主観的には両端揃えのデザインを好むということだった。可読性とデザイン性の間でジレンマが生じるところである。しかし、読み手が情報を短時間で理解する必要があるプレゼンテーションにおいては、やはり左揃えに軍配が上がる。
アクセシビリティへの配慮も
左揃えを選ぶべき理由は、もう一つある。それは、アクセシビリティへの配慮、すなわち障がいや疾患の有無に関わらず、全ての人にとって読みやすいデザインの実現だ。その基本概念については、理想的な配色について言及した以下の記事でも取り上げた。
一見、些細な違いに思えるかもしれないが、文字配置もアクセシビリティを左右する重要な要素だ。
過去記事でもご紹介した非営利団体W3C (World Wide Web Consortium) が定めるガイドラインでは、両端揃えを避けることが推奨されている(達成基準1.4.8を参照)。
リムリック大学のリソースでも説明されている通り、(英文の場合) 両端揃えでは単語と単語の間に不均等なスペースが生まれるため、読み手にとって視覚的な負担が重くなる恐れがあるのだ。単語と単語の間に本来スペースを設けない日本語の場合は、文字同士の間隔が問題となりうる。
尚、同じく字間の広さが行ごとに変わってしまう「均等割り付け」設定でも同様の問題が生じるため、こちらも可読性の観点から長文テキストには適さない。
まとめ
スライド上の文字の配置は、ヴィジュアルだけでなく情報の伝達効率にも直結する。Timewitch標準フォーマットでも用いられる左揃えの読みやすさは、この記事でご紹介したデータに裏付けられている。その上、アクセシビリティに配慮したデザインを実現できる。
とはいえ、PowerPointで選択できる5つの文字配列設定はいずれも一長一短であり、プレゼンごとに目的や対象読者を鑑みたベストな選択が求められる。今回取り上げなかった他の設定の利点と効果的な用法については、またの機会に掘り下げていきたい。